ラヴェル「古風なメヌエット」アナリーゼ
レッスンで習ったことのメモです。
うろ覚えをまとめているので間違ったことが書いてあったらご指摘ください。
ラヴェルの曲を解釈するにあたり、いくつか知識が必要となるので、まずそれを整理する(一つも知らない知識だった)。
非和声音
詳細は以下のページなどを参照されたい。
非和声音は六つに分類される。上記のWebページに書かれていないメモを記す。
教会旋法
中世期には、今日における長調・短調以外にも様々な音階(旋法)があった。以下の12種類に分類される。
このうち、イオニアが現在の長調、エオリアが短調のもととなった。
詳細は[石桁真礼生ほか、『新装版楽典―理論と実習―』、音楽之友社、2001]などを参照されたい。
(フリギアは、ゲーム音楽の高原っぽい場面などでよく使われるらしい。また、ポップスでも教会旋法はよく使われる)
教会旋法の調性判断
調号がつかない(ピアノの白鍵だけを叩く)場合、Cから始めれば長調、Aから始めれば短調になるように、それ以外にもどの音から始めるか、でどの旋法に当てはまるのかが決まる。
(そう考えるとドリアとヒポミクソリディアはどちらもDから始まるが、どう分かれているんだろう)
つまり「何番目に半音が現れるか」で分類されている。
なお、どの旋法かというのは、普通の長調や短調のように縦の響き(和音)で決まるというよりは、横の流れで決まってくる。主音はだいたいバスパートが担っているので、そこから旋律に現れる音を調べ上げて、調性判断することができる。
歴史的背景
中世期に使われていた教会旋法は一度廃れてしまったが、なぜまた使われるようになったのか。
ワーグナーの時代、調性(長調・短調)の音楽がかなり成熟した。そのため、新しい音楽をやるには、かえって調整の枠組みが邪魔になってしまうようになった。そこで、新しいことをするために、ワーグナーでは『トリスタンとイゾルデ』で教会旋法を使い始めた。
新ウィーン楽派とよばれるシェーンベルクやベルクたちは、12音技法という新しい旋法を作って使いだした。これは、CからHまでの12個の音を様々に並び替えて、その順列を音階とするものである。(ちょっと違ったかもしれない)
一方フランスでは、教会旋法のような昔のものをつかったり、民族音楽に使われる5音音階(ペンタトニック)を使ったりしていた。ラヴェルが生まれた頃は普仏戦争後で、作曲家たちはフランスのアイデンティティを求めていた。ラヴェルはアルカイムズ(懐古主義)の傾向があり、メヌエットやパヴァーヌなどの昔の形式の曲を作っていた。
メヌエット
フランスの昔の民族舞踊的なもので、ルイ14世が宮廷音楽に昇華した。
バッハなどバロック時代ではよく書かれており、2小節単位のフレーズが多い、飛んだり跳ねたりしないゆったりした曲調で、ワルツのような軽快さはない。
ラヴェルの時代にすでに古かったメヌエットにあえて「古風」をつけているのは、ルイ14世が宮廷音楽に使ったものよりももっと古い、もともとのメヌエットを意識しているということだと考えられている。
なお、バロック時代の作曲家としてはクープランなども挙げられ、『クープランの墓』という作品があることからも、ラヴェルのアルカイムズがうかがえる。
楽曲解釈
もともとメヌエットにはトリオはないが、この曲はA-B-A形式となっている。
基本はFis-mollで、ラヴェルの初期(学生時代)の作品ということもあり、教会旋法なども現れるが、普通の調性も使われている。
なお、ほとんど和声的短音階は用いられていない。これは、いかにも「Fis-moll!」の感じが現れてしまうので、自然的短音階(またはエオリア)を使っていると考えられる。
始まりはいきなり非和声音の倚音が用いられている。倚音を使うと2度が現れることになるが、ラヴェルは曲全体を通して2度、ないしはその転回の7度を多用している。これは、様々な音階(旋法)を使うことによりバラバラになりそうな曲に統一感を出す働きをしている。
Fis-mollから始まるが、いきなり1小節目の後半からは調整感の薄いエオリアが使われ、エオリアのゼクエンツと冒頭の音形のカノンが重なる。
カノン・フーガ・ゼクエンツの違い
- カノン……全く同じ音を繰り返す
- フーガ……違う調で繰り返す。ほかにも様々なルールが厳しく決められている
- ゼクエンツ……同じ形で一つずつ下りてくる
Cis-フリギアで駆け上がったあと、エオリアらしい響きを経てピカルディー終止となり、冒頭へ繰り返す。
ピカルディー終止
短調だったのが最後だけ長調になる終わり方。バロックでよく用いられていた(ラヴェルのアルカイムズ)。
たとえば、バッハの『シンフォニア(A-moll)』など。
繰り返しの後は、Cis-moll→E-dur(Cis-mollの平行調)風→Gis-moll風→Dis-フリギア→Dis-moll→……とどんどん変わっていく(文字で書くのは難しいので今回は割愛)。
28小節目からはバスのCisの伸ばしがオルゲルプンクト的な役割を果たし、フリギアのゼクエンツとなる。32小節目からは音形こそやや異なるが、その前とやっていることはほぼ同じである。
中間部はそこまで複雑な構造ではない。
64小節目からはFis-durだが、9の和音が使われている。このようにラヴェルは7や9の和音を多用することにより、全体的にぼんやりとした感じになるので、印象派の作曲家とよばれた。